ショートショートのパイオニア。日本SF小説界のレジェンド。星新一先生の個人的おすすめ本

2020/06/12

読書感想&おすすめ本

ちょっと前に海外SF小説の話を書きましたが、ならばやはりこっちも書かない訳にはいかないだろうということで、2016年にAIが書いた小説が第三回の星新一賞の一次審査を通過というニュースも記憶に新しい、ショートショート(掌編小説)の神様と呼ばれる星新一先生のお話の記事です。



星新一先生のごく簡単な説明



東京生れ。東京大学農学部卒。1957(昭和32)年、日本最初のSF同人誌「宇宙塵」の創刊に参画し、ショート・ショートという分野を開拓した。
1001編を超す作品を生み出したSF作家の第一人者。
SF以外にも父・星一や祖父・小金井良精とその時代を描いた伝記文学などを執筆している。
著書に『ボッコちゃん』『悪魔のいる天国』『マイ国家』『ノックの音が』など多数。
『悪魔のいる天国』カバー裏より引用


熱心なファンが多いことでも知られていますが、SFに興味を持ったきっかけがレイ・ブラッドベリの『火星年代記』であることは有名な話で、また、先生の作品は20言語以上に翻訳され世界で読まれているとのことです。


1985年時点で英語・ドイツ語・フランス語・イタリア語・中国語・ロシア語・朝鮮語・ルーマニア語・ポーランド語・チェコ語・インドネシア語・ウクライナ語・ノルウェー語・ラトビア語・リトアニア語・ベンガル語・セルビア・クロアチア語・マジャール語・アゼルバイジャン語・エスペラントの20言語(深見弾「星新一―億の読者をもつ作家」(新潮文庫「たくさんのタブー」巻末)より)。


星新一先生作品との出会いと魅力


出会い

星新一先生の作品との出会いは、何かの雑誌か本かに収録されていた『愛の鍵』というお話で、とても短いけれど良いお話で長く余韻が続くように後々まで心に残ったお話でした。

なんというか日常の中にある、ちょっと良いことに遭遇した時の様な。飛び跳ねるくらいに喜ぶ、というものではなく、ちょっとした良いことがあって心が暖まるような感覚に近いものでした。

その後、他のお話も読みたくなって近所の本屋で『ようこそ地球さん』という文庫本をさっそく買って読んだところ『セキストラ』という短編に衝撃を受け、それをきっかけに先生の文庫を買い集め始めたのを覚えています。

『セキストラ』のお話をごく簡単に解説すると、普通のお話のような筋書は一切存在せず、雑誌の記事の一部や新聞の記事、投書。レコード評にハガキ。果ては興信所の調査報告といったものというあくまでひとつひとつのパーツのみで構成されていて、最後まで通して読むとその全様が分かるという驚きの短編です。

このような構成を思いつく発想も凄いですが、全てのものがちゃんと繋がっており、読み進めるにつれ物語を読み解くヒントが徐々に示されていく文章の妙に衝撃を受けたことを今でもよく覚えています。

しかもこのお話が作家となるきっかけになったというのがまた二重に驚きです。これは先生の作品の中でもぜひ一読をおすすめしたいお話のひとつです。
前述の『愛の鍵』も『ようこそ地球さん』に収録されています。


魅力

先生の魅力というと多分よく言われるのが、オチの秀逸さ。軽快なジョーク。どこか皮肉を含んだナンセンスさだとかシュールさだとか、何よりその発想のバリエーションの豊富さだと思いますが、もちろんそれはありきという話で、絶妙な立ち位置、視点にあるんじゃなかろうかと個人的に思っていて、何かしらのものやことに妙に肩入れするでもなく、何かしらの強い主張をする訳でもなく。

ただ淡々と流れるように物語を綴っているという、短編という性質上、との理由もあるかもしれませんが悪く言えば投げやりとも思える、諦観とか突き放すというよりかはもうちょっと感情の温度が高くない、あくまで俯瞰的な立ち位置に徹しているという絶妙な感じが好きです。

発想もこんな発想、視点があったんだ、という新鮮な発見もあるし、固くなった頭をほぐしてくれるような感覚が得られるのも、いくつもある魅力のひとつだと思います。

ついつい当たり前だと思ってしまうこと。日常生活の中で凝り固まってしまう考え。固定観念やこれまでもっていた価値観を鮮やかに破壊してくれるというか、物事に対する見え方がすっかり変わってしまうくらいのものもあって、この辺りが熱心なファンが多い理由のひとつなのかなと勝手に推察しています。

空いた時間にさっと読める しかも1000作品以上も


長さはまちまちですが、ひとつひとつのお話は短いのでちょっとした隙間時間にさっと読めて、かつどのお話も特段凝った設定も無いので、さあこれから一冊読破するぞ! と気負うことも全くなく、暇つぶしと言うと言葉はあまりよくないですが、カップラーメンの出来上がりを待つ間なんかにちょうどいいかもしれません。もちろん一冊まるまる続けてじっくりと読んでもいいですが。

そして1001編を超える作品数もあるので、そのうちのどれか一つくらいはきっと気に入るお話があるかと思います。
何冊か読んだ後にそんなお気に入りのお話をまとめて読み返すのもまたいいのではないかと思います。

余談1:表紙イラストがかっこいい


星新一先生の本は各出版社(新潮、角川など)から出ていますが、新潮版のイラストレイターの真鍋博さんの描く表紙がまた謎めいていて、象徴的で近未来的な感じ。そして何よりこのシンプルさが先生の作風と非常にマッチしているのではないかと勝手に思っています。

特に『凶夢など30』の表紙が見た瞬間からすぐ気に入って、撮影したものをスマホの背景にしていました。



余談ですが『これからの出来事』では真鍋博さんによる解説が読めます。
wikipediaによると、よくSF御三家という括りで名前が一緒に出される筒井康隆先生の本の表紙も、真鍋博さんが描いているものもあるそうですね。


余談2:AI(人工知能)が小説を書く時代


2016年にAIが書いた小説が第三回の星新一賞の一次審査を通過した、なんておどろきのニュースを何年前かの目にしましたが、仕組みが気になったので公式サイトをのぞいてみたところ

星新一のショートショート全編を分析し、エッセイなどに書かれたアイデア発想法を参考にして、人工知能におもしろいショートショートを創作させることを目指すプロジェクトです。
公立はこだて未来大学の松原仁教授を中心にしたプロジェクトチームで、2012年9月にスタート。鋭意活動中です。



との説明書きがちゃんとありました。
つまり全部の小説データと、物語の流れの法則性なんかを見つけ出して、どこをどう組み合わせるかのプログラムで自動生成したのではないかと勝手に想像しましたが、実際のところはどうなんでしょうか。

「もしも人工知能がお話を作る世界があったら」というネタでお話を作るとしたら一体どんなオチをつけるだろうと、考えるのも楽しいです。




ようこそ地球さん (新潮文庫)(日本語) 文庫

 




凶夢など30 (新潮文庫) (日本語) 文庫

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個人サークル「elh(エル)」及び所属制作サークル「future extra」にてオリジナルの電子書籍作品、ヴィジュアルノベル、RPGなどを作っています。 無料作品もありますのでお気軽にどうぞ。各作品の詳細及びダウンロードはelhのサイト及び各サイト様へのリンクにてご案内しております。 ハンドル名の由来は映画『2001年宇宙の旅』のHALプログラムを簡略化したものです。

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