幼年期の終り CHILDHOOD'S END
著:アーサー・C・クラーク
1952年
評価
発表から2か月の間に21万部の売上を記録し、また批評家たちからも好意的な評価を得た。また、クラークのファンの多くは『幼年期の終り』を彼の最高傑作だと考えているという。日本の純文学作家の三島由紀夫も『幼年期の終り』を読み、「随一の傑作と呼んで憚らない」と評している。
wikipedia『幼年期の終り』より引用
wikipediaを見て驚いたので引用させてもらいました。三島由紀夫の本もいくつか読んでいましたがこれは知りませんでした。
あらすじ
人類が宇宙に進出したその日、巨大宇宙船団が地球の空を覆った。
やがて人々の頭の中に一つの言葉がこだまする――人類はもはや孤独ではない。
それから50年、人類より遥かに高度な知能と技術を有するエイリアンは、その姿を現すことなく、平和裡に地球管理を行っていた。
彼らの真の目的は? そして人類の未来は?
宇宙知性との遭遇によって新たな道を歩みだす人類の姿を、巨匠が詩情豊かに描きあげたSF史上屈指の名作
本書背表紙より引用
SFの醍醐味、そして楽しさが堪能できる一冊
おそらく誰しもが一度は考える、未来の世界はどうなっているんだろう。例えばもしこんなことが、もしくはこんな技術があったら。なんていうことを科学的な考察(あるいは根拠)をもとに大真面目に、時にジョークや皮肉を交えつつ追及したり。あるいは予想したり。そんなものがSF本を読む数ある楽しさのうちの一つだと思っていますが、本書はこの楽しみを十二分に味わえる一冊だと思っています。
突如世界各国の首都都市の上空に大型の宇宙船団が出現、なんていうあらすじを読んだだけではもしかしたらちょっと荒唐無稽過ぎるのではと思う方もいるかもしれませんが、いざ読み進めていくと段々と「実際にこんなことがあったとしたら?」となったり「ひょっとすると?」とか「あるいはこんな未来があるのかも」なんていう風にまるでその本の中のいち住人になったかのように、いつの間にか知らぬうちに物語の行く末を案じ、真剣に考え始めていることに驚きます。
それが一体何故なのか。色々と自分なりに考えてみたものの理由ははっきりと分かりませんでしたが、単純に著者の科学的知識と素養・知見によるものなのか。もしくは洞察力によるものなのか。はたまたそれら全てが一体となった説得力。それが現れる語り口調(文体)に思わず息を潜めてじっと真剣に耳を傾けてしまう。そんな力があるのではないかもしれないと、個人的に考えました。
続きが気になって最後までページをめくる手が止まらない
突如圧倒的な科学力を持った、しかも未知の存在と出会った時、人類は一体どんなリアクションを起こすのか。一体どんな存在なのか、そしてコンタクトはどういった形になるのか。またそれ以降はどんな変化を迎えるようになるのか。まるでその光景を実際に見て、それを淡々と物語っているだけのような、読み進めているうちにそんな風にも思えてきます。これが1952年に書かれたとは驚くばかりです。
繰り返しになりますが、単にお話を読むという娯楽の一つに費やすような興味から、彼らは一体どんな目的で人類に接触してきたのか。その目的とは。その正体は? という様に、まるで別の未来の可能性の世界の行く末を見守っているような、真剣な興味にシフトしていきました。
おそらく人類だけでは到底成し得なかった。戦争の懸念やその他の数々のあらゆる問題を、高度な知能と技術を有する上帝(オーバーロード)というエイリアンによる完全な外的要因で解決し幼年期を終りを迎えた人類。
そしてこのお話のオチを含めてSFという範疇。科学的なものだけで収まってはいない。それ以上のイマジネーションで描かれた、ひとつの未来の姿が存在しているように思えます。
本などの創作物は数多く色々なものに触れれば触れるほどより次の創作物が楽しめると実に単純な考えなので、記憶を消してもう一度読みたいということはまず思わないのですが、この本にいたってはもう一度まっさらな気持ちと記憶で読みたいと思っています。
一体人類はどうなったのか。このお話はどんな結末を迎えるのか。是非それを見届けてみてください。きっと驚くことは間違いないと思います。
幼年期の終り CHILDHOOD'S END
著:アーサー・C・クラーク
訳:福島正実