むしろエンタメとして面白さを追求し意識して書かれたものも多く、実際に読んでも非常に面白くページをめくる手が止まらなくなること請け合いです。ということで最初に触れる入口として適していそうなおすすめ小説をあくまで主観で四つ選んでみました。
夏への扉

著:ロバート・A. ハインライン
訳:福島 正実
あらすじ
ぼくの飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。本書背表紙より引用
家にあるいくつものドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。
1970年12月3日、かくいうぼくも、夏への扉を探していた。
最愛の恋人に裏切られ、生命から二番目に大切な発明までだましとられたぼくの心は、12月の空同様に凍てついていたのだ!
そんな時、<冷凍睡眠保険>のネオンサインにひきよせられて……永遠の名作。
入口として一番最適で一番最初に持ってきたかったのはこの一冊です。
SFに触れたことがない、または興味がない方でもきっと楽しめるのに違いないと思う程エンタメ性が高く、なんと言っても凝った難しい言い回しも無く、抜群に読み易いです。
そして書かれている視点が一人称というのがまた、物語への没入感を増しているのかもしれません。
この三つの点が何より入門用として最適ではないかと考える理由です。
彼は、その人間用のドアの、少なくともどれかひとつが、夏に通じているという固い信念を持っていたのである。(P8より引用)
もうこの冒頭部分だけですっかり惹かれるものがあります。彼というのは、もちろん主人公の飼い猫のピートのことです。
冷凍睡眠(コールド・スリープ)やタイムトラベルといったSF要素を下地にしながら、誰が読んでも面白く続きが気になって仕方が無くなるエンタメ性に優れた物語になっており、特に後半の盛り上がりは一気に読んでしまうのが惜しくて何度も読む手を止めて、じっくりと租借して心が落ち着くのを待ってからまたページをめくるなんてことをしていました。
定期的に読み返したくなる。その度に毎回オチまで知っているのに何故か新鮮な感動を与えてくれる。
しかしながらその感動をしっかり味わいたいのでそんなに頻繁には読み返さないでいる、という自分にとってそんな心の一冊でもあります。
思えば夏という季節が個人的に好きなのは、この一冊による影響が少なくないと思うばかりです。
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

著: フィリップ・K・ディック
訳:浅倉久志
あらすじ
第三次世界大戦後、放射能灰に汚された地球では、生きている動物を所有することが地位の象徴となっていた。本書背表紙より引用
人工の電気羊しかもっていないリックは、本物の動物を手に入れるため、火星から逃亡してきた<奴隷>アンドロイド8人の首にかけられた莫大な懸賞金を狙って、決死の狩りをはじめた!
現代SFの旗手ディックが、斬新な着想と華麗な筆致をもちいて描きあげためくるめく白昼夢の世界!
〔映画名「ブレードランナー」〕
最早説明不要なほど有名過ぎる程有名な小説なのですが、やはりそういうものは一冊は入れておくべきかというのと、後発の作品(小説に限らず)に対する影響力とか、まさにSFらしさがそこここに散りばめられており、SF作品の楽しみ方の基本がおさえられるので、他のSFへと手を伸ばした時によりすんなりと入っていけるようになるのでは。と、そんな数々の理由で本書を入れました。
それにしても新しい表紙は随分とかっこいい感じになってますね。 昔の味のある、雰囲気のある表紙も好きなんですが。
長さも約300ページほどと、そこまで長くないのも良いですね。
そして最近新作が公開された映画『ブレードランナー』の原作となっている小説でもあります。
自分もそうだったように、出来れば間をあけて二回以上読んでもらいたい小説かなと思います。
一回目は「ふーん、SFってこんな感じなんだ」みたいな感想かもしれませんが、例えば他の作家の作品を読んだりして経験値を積んでから改めて読むと一度目よりずっと多くのものを得られることに驚くはずです。
そしてディックの発想力に改めて驚嘆するかと思います。
本書に限らずですがディックの作品は新しい機器やテクノロジーなどが(未来の生活様式なども含む)ぽんぽん出てきますが、中にはかなりリアルの描写で実際に触れたのでは、と思う程のものもあり。または今にも実現しそうなものもあったり。これからきっと実現するのでは、と確信に近い感じを受けるようなものもあったりと。
そんな優れた未来予想家の面もあるのではないかと、個人的に思っています。
そういったものに活字として触れられる、そして想像力の中で楽しめるというのは、実に得難いものだと思います。
タイタンの妖女

著:カート・ヴォネガット・ジュニア
訳:浅倉久志
あらすじ
時空を超えたあらゆる時と場所に波動現象として存在する、ウインストン・ナイルズ・ラムファードは、神のような力を使って、さまざまな計画を実行し、人類を導いていた。本書背表紙より引用
その計画で操られる最大の受難者が、全米一の大富豪マラカイ・コンスタントだった。
富も記憶も奪われ、地球から火星、水星へと太陽系を流浪させられるコンスタントの行く末と、人類の究極の運命とは?
巨匠がシニカルかつユーモラスに描いた感動作。
個人的な感想では他のものに比べて長さもそれなりにあって、若干歯ごたえがある感じなので、ある程度SF小説に慣れてきたところで読むのがいいかなと思いますが、あえて入れました。
おそらく一気に読破してしまう、というよりかは(もちろん一気に通して読んでもいいかと思いますが)何かの合間にちょこちょこと読み進める、シーンごとに楽しむ方がより楽しめる小説ではないかととらえております。
これまた上記の『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』と同じく、間をあけて二回以上読むとよりその面白さが理解できるようになっているではないかと思います。
読んでいる内のどこか心の中に引っかかる、または片隅の残る「あれは一体どういうことだったのだろう」と何度も手に取って読み返すようになる頃には、きっとSF小説の面白さ、そしてこの本の魅力に気がつくかと思います。
本書の最初の方を読むだけでもさらっと読んでしまうには惜しい、機会あれば何度も引用したくなるような凝った言い回しなんかや、何度も考えたくなるような気になる一文などが多分に含まれているのが、他の作家にはなかなか無いものだと思っています。
そしてなんというか他のヴォネガット作品に通じることかもしれませんが、未来の世界をどこか滑稽に、人の馬鹿馬鹿しさを皮肉とユーモアを交えて面白おかしく語ってくれるように感じる、とそんなスタンスはこの作家の特徴のような気がします。
リプレイ

著:ケン・グリムウッド
訳:杉山 高之
あらすじ
ニューヨークの小さなラジオ局で、ニュース・ディレクターをしているジェフは、43歳の秋に死亡した。本書背表紙より引用
気がつくと学生寮にいて、どうやら18歳に逆戻りしたらしい。
記憶と知識は元のまま、体は25年前のもの。
株も競馬も思いのまま、彼は大金持に。
が、再び同日同時刻に死亡。
気がつくと、また――。
人生をもう一度やり直せたら、という窮極の夢を実現した男の、意外な、意外な人生。
このあらすじを読んだだけで、なんだかすごくわくわくするし面白そうだと思いませんか?
歴史改変、なんてキーワードにピンとくる。またはぐっとくる人には特におすすめです。
強くてニューゲーム、とは少し違いますが現在の知識と経験を持ったまま過去の体、そして時間に戻ったら、なんていう空想をおそらく誰しもが一度はしたことがあるんじゃないかと思いますが、まさしくそれを実現したものです。
約500ページと結構長く目次が無いので、元の18歳の時点に戻るところに毎回付箋みたいなものを挟むと読み易いので、おすすめします。
何度も繰り返す死と復活。毎回同じ時点を迎えるその度に全てリセットされてしまい、同じ過去のポイントである18歳からの人生が始まるけれど、その原因はまったくもって不明。
この延々と繰り返しの人生を経験する度に移り変わってゆく主人公の心境の変化は非常に興味深いものがあります。
そして同じリプレイを繰り返している人物との出会い。
なぜ何度も同じ人生の一部を繰り返すのか、その規則性とは。色々な謎や疑問の解消、答えなどを知りたい欲求に突き動かされるように読み進めていく訳ですが、何よりラストのオチが凄く良かったので、読破後の充足感があり凄く心に残りました。
往々にしてこういった過去改変ものの物語の終りはどこかビターなほろ苦い結末を迎えることが多い気がしますが、凄く良い終わり方だったなと感動した記憶があります。
あとがきの解説にもありますが、本書は1988年、第十四回世界幻想文学大賞の受賞作品ですのでSF作品にカテゴライズされているのかと問われれば、悩みますが(かといってファンタジーとも言い切れないような)タイムトラベル要素や、空想の実現した世界やその行く末、結末などを含め、その楽しみ方はまさにSFにも通じるものが多いとの理由で本書を最後に入れました。
さいごに SF好きの単なる戯言
ということで海外SF小説の入門用として勝手におすすめしてみましたが、いかがだったでしょうか。
世に数多くある大ヒット映画、ドラマ。アニメに漫画なんかもSF的な要素が多少なりとも含んでいるものも多く、そしてまだまだ掘り尽していない、想像の可能性を秘めた源泉でもあるもので、これからもまだまだ新しい発想とアイデアと共に新たなものが生まれていくジャンルだと思っています。
時として、単なる娯楽の域を出ないとしてSF小説なんかが軽んじられることもあるのかもしれませんが、下手な自己啓発本を十冊読むよりも、一冊の感銘・感動を受ける物語を一つ読む方が、時としてずっと得られるのが大きい場合があると確信しています。
そしてその後の考え方や、人生においての示唆や教訓。少し大げさかもしれませんが人格形成にも少なくない影響を与えるかもしれない物語との出会いの場を与えてくれる小説、本との出会いは何事にも代えがたい得難いものになるので、こういった機会にでもその出会いのきっかけとなればさいわいです。
夏への扉


アンドロイドは電気羊の夢を見るか?


タイタンの妖女


リプレイ

